# 机
2021.8.5~ 振り付けの種を文字起こしする試み「生活の無題」の記録
2021年8月5日
あるく
会社のデスクの一番下の引き出しから持ち出した、使いさしだが900mlほぼ満杯のポンプ型マウスウォッシュ1体を抱えて帰路 につく。下から掬い取るように片手に収めてぶらりと揺らしたり、小脇に挟んだり、胸の前に捧げ持つなど工夫をこらす。優しい重みを腹に響かせる。握る力をうまく分散させなければ容器が圧迫され液体がこぼれ出す。たまに意図的に、あるいは無意識的にこぼすことで外界とポンプ内との環境格差を是正する必要がある。ポンプの首と人の視線とが偶発的にかち合う。その火花を足の指先に点火させ歩く。
生活の無題 #1
2021年8月6日
影を探す
東に向かって一目散に駆ける。あと6分、行けるところまで行く。信号では明暗が分かれる。進めるはずの数分を足止めされたり、点滅に追い立てられて思わぬところまで進んだりする。どちらでもよい、とにかく行けるところまで行く。なるべく視線を落とさぬよう、時計を確認する。30秒前、まだ走る、20秒前、まだ走る、10秒前、歩く、5秒前、止まる、振り返る、西へ。0秒、直立、目を閉じる。1分後、東へ歩き出す。走らない。風を感じる。
生活の無題 #2
2021年8月7日
逆立ち
薄れゆく意識のなかでも遂行する振付
生活の無題 #3
2021年8月8日
坂道へ
例えば、留守の間、どうかコイツの水やりだけは。水だけでいい、どうか。そう言いながらしっかり、液体肥料のスプレーも渡す。週に1,2度店に通い続け、6ヶ月目の関係にして初めて頼みごとをする。2ヶ月前から算段をつけ、この日のために 少しずついろいろな頼みごとをききいれておく。このとき自分を浅ましい人間と思っても、思わなくても構わない。ただ、いよいよこちらから頼みごとをした日の夕方、運び損となったウクレレを一旦置きに戻りさらに20分先の100円ショップへ歩いて行かねばならぬヘトヘトのそのとき、改めて夕飯の約束をしていたその人の店にちょっと立ち寄ってみる。ヘトヘトであること、自転車がないので徒歩で行ってくる、少し遅くなるということを話す。すると自転車を貸してくれる。これは明確に浅ましい想像の果実である。
生活の無題 #4
2021年8月9日
触る
鳥の編隊飛行。日付変更線を乗り越える。幾度も今日を生きる。
生活の無題 #5
2021年8月10日
ねじれ
首肯せず言葉を提出する
生活の無題 #6
2021年8月11日
なでる
チの味がする5景
1. 熱々のミディアムレアを頬張りながら強引に口角引きあげギョギョ!と叫ぶカウンターテーブル
2. 雄々しい緑の叢を行きに踏み踏み帰りも踏み踏む群れにはぐれた若人たち
3 . 寝起きのサーターアンダギーをけして諦めず階段を転がり降りるシーサー決死のダイブ
4. 意識の8割を手放しながらも歯茎を痛めつける娘の地団駄 塩を塗り込めキズいつかイエル
5. 海風が山にぶつかる音をききなさい 同じ夜 陸の向こうからやってくる 生活に割り込む轟音をききなさい
生活の無題 #7
2021年8月12日
スライド
背伸びして頭蓋骨をゆらゆらゆすると黄緑色の倉庫や黄色い看板の質屋や土や木やトラックや白い筒状の施設の向こうにセルリアン・ブルーの波が見える
生活の無題 #8
2021年8月13日
踏む
どこもかしこも水
生き物は永遠に水に生かされ水に苦しめられるのだと知る
この部屋の見えない水と格闘する
生活の無題 #9
2021年8月14日
シースルー
私と彼/彼女を隔てるものは何か?
もっとも気になるものをひとつ選んで粘土で捏ね上げる
生活の無題 #10
2021年8月15日
まわる
のこしかたを考える。形が消えてもいい。
生活の無題 #11
2021年8月16日
裂ける
ひとつひとつ剥がす。この体に境界はないことを知る。成長し衰える、常に変容する生命体として生きる。泳ぐ。首尾一貫しない生を受け入れる。
生活の無題 #12